謎はあるか?

 まず、主人公の少年が登場します。物見台に上がって、見張り役と言葉を交わしますが、そこからただならぬ空気が読み取れます。何が起こるのかと固唾を飲んでみていると、森の中を得たいの知れない黒い物体が動いて行きます。それが森から液状となって出てきたところで、『もののけ姫』のタイトルが入ります。次の瞬間、巨大な蜘蛛(くも)のような生き物が走り出てきます。

 宮崎駿監督の『もののけ姫』の冒頭のシーンです。ご覧になっていて、思い出された方もいらっしゃるかと思います。観客を、一気に物語の中に引きづり込む、見事な導入部です。

 映画では、導入で観客の気持ちをつかみそこねたとしても、途中で挽回するチャンスはあります。観客は、その映画を鑑賞するために、先に入場料を払っているのですから。

 ところが、書店に並んでいる本に、そんなゆとりはありません。お客は、一度手にした本の冒頭を読んで面白くなければ、そのまま書棚に戻してしまいます。

 ですから、プロの作家は導入部に神経を集中させます。タイトルと同様に、あるいはそれ以上に売れるかどうかの重要なポイントになるのです。

 では、読み手や聞き手を引きずり込むために、どんな出だしにすればいいのでしょうか。

 たとえば、この項の冒頭を読み返してみてください。

 主人公の少年、ただならぬ空気、得体の知れない黒い物体という言葉に、何が始まるのかと疑問を持ったかと思います。『もののけ姫』の冒頭そのまま、何が起こるのだろうかという謎が、読み手や聞き手をこちらに引きずり込みます。

 ですから、問題提起が論文のスタンダードな序論になっています。

 冒頭、講師が聴衆に問いかけるのは、常套手段です。

 「どうすれば儲かるか」「飯田左内を知っていますか」という疑問刑の導入が、文章や話のつかみになります。

 疑問になっていなくても、「お金儲けは簡単です」「飯田左内は人ではない」と断定すると、やはり人は引き込まれます。お金儲けが簡単?人でなければ何?と、疑問に思うからです。

 疑問を持たせる。これが、相手を引き込む導入の一つのテクニックです。

 もちろん、導入で提起した問題や問いかけには、必ずその解答も見せなければなりません。

 ちなみに、飯田左内とは、なかなか言葉を発しない人のことです。言い出さない、を人名にした言葉です。飯田左内は、書かない人、話さない人のことであり、少なくともそういう人は、簡単にはお金儲けができない人でもあると言えるでしょう。

「書ける!話せる!31のパフォーマンスと実践」(有本隆) P95〜P97より引用

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